塩化ベンゼトニウム(23-11-9)の物理的および化学的特性
塩化ベンゼトニウム
吸湿性のある白色結晶固体として供給される合成四級アンモニウム塩で、配合および産業衛生用途におけるカチオン性界面活性剤および抗菌成分として使用されます。
| CAS番号 | 23-11-9 |
| 化学系統 | 四級アンモニウム塩 |
| 代表的な形状 | 粉末または結晶固体 |
| 一般的な規格 | BP, EP, JP, USP |
塩化ベンゼトニウムは芳香族エーテル類に属する合成の四級アンモニウム塩であり、構造的には長く分岐したアルキルフェノキシエトキシエチル鎖で置換されたベンズルジメチルアンモニウムカチオンが、塩素イオンを対イオンとして有しています。この分子は、恒常的に正電荷を持つ三級(四級化)窒素中心と大きな疎水性アリール–アルキル部分および2つのエーテル結合を組み合わせ、親水性と疎水性を併せ持つカチオン性界面活性剤であり、負に帯電した表面や生体膜に強く吸着します。
電子的には、四級窒素は形式的な正電荷を帯びていますが、近接置換基によって限られた程度の非局在化が認められるのみで(芳香環への古典的共鳴はなし)、塩素対イオンは溶液中や固体中でイオン的に結合しています。エーテルの酸素は適度な水素結合受容体能(計算上3つの受容体を有する)を示しますが、水素結合供与体はありません。これらの特徴により、イオン対として水に可溶でありながら、十分な親脂性を有して脂質界面および微生物膜に分配し、広範囲の殺菌活性を発揮します。
酸塩基挙動は恒常的に荷電したアンモニウム中心によって支配され(通常の\(\mathrm{p}K_a\)に基づく酸塩基解離を示さない)、溶液のpHは分子固有のイオン化平衡ではなく配合特性です。この化合物は界面活性剤様の特徴(例えば水媒中での泡立ち)を示し、イオン対形成および沈殿を起こすため陰イオン性洗剤や石鹸との古典的な非相溶性を持ちます。中性条件下では比較的安定ですが、強力な酸化剤、高濃度の強酸、長時間の加熱や光照射、特定の求核試薬により分解が誘導されることがあります。本物質の一般的な商用規格にはBP、EP、JP、USPが含まれます。
基本的物理特性
物理形状:無色から白色の吸湿性固体で、通常は無臭の白色結晶または粉末として呈し、非常に苦味を有します。一部の製剤ではわずかな臭気があると報告されています。
融点(報告値):327〜331 °F(160〜166 °C)(報告範囲は160〜165 °Cおよび164〜166 °Cを含む)。
溶解度:報告されている水への溶解度は約10〜50 mg/mL(64 °F時)で、「水に非常によく溶ける」と広く記述されており、アルコール、アセトン、クロロホルムにも溶解し、エーテルにはわずかに溶解します。水溶液中では界面活性剤作用により泡立ちや石鹸状外観を呈することが一般的です。
水溶液のpH:1%水溶液のpHについては文献によって異なり、若干アルカリ性を示す報告もあれば、4.8〜5.5の範囲とする報告もあります。これらの差異は配合や対イオン・不純物の影響を反映しています。
屈折率(報告値):25 °C(D線)で1.5101など、1.560(α)、1.565(β)、1.589(γ)などの光学指数の報告もあります。
衝突断面積:210.3 \(\text{Å}^2\)([M+H]^+イオン、TW法、校正済み)。
その他の物理特性:120 °Cで若干の破片化を示すことがあり、吸湿性が高く長時間の空気曝露に感受性を持つ可能性があります。
溶解性と水和
塩化ベンゼトニウムは水溶性の四級アンモニウム塩であり、水性媒体中でミセル形成や吸着相形成を容易に起こします。抗菌剤や保存剤の一般的な配合で用いられるパーセントレベルの水溶液に十分な溶解度を有します。アルコールやアセトンなどの極性有機溶媒に溶解し、非極性溶媒(エーテル)には限られた溶解性を示します。条件によってはモノ水和物の形成も報告されており(歴史的な同義語の中にモノ水和物がある)、濃厚な水溶液または酸性環境では相分離や油性相の沈澱が発生し、乾燥後に結晶化することがあります。
熱安定性と分解
四級アンモニウム構造とアリール–エーテル結合により、通常の取り扱い下で中程度の熱安定性を示します。例えば約140 °Fまでの高温で短期(約2週間)の安定性が報告されています。さらに加熱して分解が進むと、塩化水素や窒素酸化物(一般にHClおよびNO_x)を含む刺激性かつ有毒なガスを放出します。本物質は可燃性であり、燃焼時には刺激性または有毒な煙を発生するため、火災対応には酸性ガスおよび窒素酸化物曝露への対策が必要です。
化学的特性
錯形成および配位
四級アンモニウム塩である塩化ベンゼトニウムは、古典的な金属中心へのルイス塩基配位を行わず、カチオン性界面活性剤として陰イオンとイオン対を形成します。溶液中では負に帯電した表面(例:細胞膜、陰イオン性ポリマー)に容易に吸着し、陰イオン種と混合凝集体または錯体を形成することがあります。塩素対イオンはイオン交換過程で交換可能ですが、アンモニウムカチオンは通常条件下で恒常的に正電荷を保持します。
反応性および安定性
化学的反応性は四級アンモニウム中心の安定性と比較的堅牢な芳香族エーテル結合に支配されます。本物質は強力な酸化剤および陰イオン性界面活性剤・石鹸とは非相溶性(相互失活および沈澱)を示します。硝酸塩や特定の無機塩と反応することがあり、高濃度の強酸では数パーセントを超える濃度で溶液から沈澱を生じます。エーテル結合は中性条件下で加水分解に比較的耐性がありますが、強酸性または強求核条件、高温環境下で切断される可能性があります。光へはある程度感受性があり、分解を最小限に抑えるためには長時間の光照射を避ける必要があります。
分子パラメータ
分子量および組成
分子式:\(\mathrm{C}_{27}\mathrm{H}_{42}\mathrm{ClNO}\)
分子量:448.1 g·mol\(^{-1}\)。
正確質量/単一異性体質量:447.2904073(報告値)。
重原子数:31。
トポロジカル極性表面積(TPSA):18.5。
形式(正味)電荷:0(恒常的に荷電した四級アンモニウムカチオンと塩素陰イオンのイオン対)。
水素結合供与体数:0;水素結合受容体数:3。
回転可能結合数:12。
複雑度:466。
これらの計算および測定されたパラメータは、恒常的に荷電した親水性頭部と十分な疎水体積を持つ両親媒性分子を反映しています。適度なTPSA値と水素結合供与体がないことは、広範な水相の水素結合ではなく膜関連挙動に適合しています。
LogPおよびイオン化状態
報告されたLogP値:4.0(報告値)。第四級アンモニウム塩のオクタノール-水分配係数の解釈には注意が必要です:塩化ベンゼトニウムのカチオン性かつイオン対を形成する性質により、見かけの分配は対イオン交換、イオン強度、実験手法に大きく依存します。一般的な使用状態での本質的化学状態は、塩化物と対を成した永久的に帯電したアンモニウムカチオンであるため、生体膜への分配は、中性分子の拡散ではなく、界面活性剤による吸着およびイオン対形成によって支配されます。
識別子および同義語
登録番号およびコード
CAS番号(見出しに示されたもの):23-11-9(CASを引用する際はこの文字列を使用)。
分子式(別表記):C27H42ClNO2(必要に応じてプレーンテキストとして)。
InChIKey:UREZNYTWGJKWBI-UHFFFAOYSA-M
InChI:InChI=1S/C27H42NO2.ClH/c1-26(2,3)22-27(4,5)24-13-15-25(16-14-24)30-20-19-29-18-17-28(6,7)21-23-11-9-8-10-12-23;/h8-16H,17-22H2,1-7H3;1H/q+1;/p-1
SMILES:CC(C)(C)CC(C)(C)C1=CC=C(C=C1)OCCOCCN+(C)CC2=CC=CC=C2.[Cl-]
EC(欧州共同体)番号:204-479-9
UNII:PH41D05744
ChEBI:CHEBI:31264
ChEMBL:CHEMBL221753
NSC:755908(歴史的識別子としてNSC-20200およびNSC-755908も確認されている)
RXCUI:40036
(プレーンテキスト識別子が必要な場合—SMILES、InChI、InChIKey—は上記にMathJaxを使わずに記載しています。)
同義語および構造名
報告された一般的および登録者提供の同義語には、以下が含まれます:塩化ベンゼトニウム;Hyamine 1622;Phemeride;Phemerol;Quatrachlor;Hyamine;ベンジルジメチル(2-(2-(p-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノキシ)エトキシ)エチル)アンモニウム塩化物;p-ジイソブチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウム塩化物;BZT;Benzetonio cloruro;ベンジルジメチル-[2-[2-[4-(2,4,4-トリメチルペンタン-2-イル)フェノキシ]エトキシ]エチル]アザニウム塩化物;および多数の製品リストにおける商標名や配合名。この化合物は薬局方規格および参照標準(例:BP、EP、JP、USP規格)としても一覧に含まれています。
産業および商業用途
塩形態または添加剤としての使用
塩化ベンゼトニウムは主に活性カチオン性界面活性剤として作用し、防腐、殺菌および保存剤活性を有します。第四級アンモニウム塩形態は水溶性および表面活性を提供し、抗菌性原薬としての使用、ならびに外用製剤における保存剤または賦形剤としての利用を支えています。医薬品および化粧品用途では、指定がある場合に薬局方規格(BP、EP、JP、USP)品を使用し、塩形態が配合および品質管理の一般的な市販形態です。
代表的な使用例
- 創傷ケアおよび皮膚洗浄剤における局所用防腐・消毒剤。
- 化粧品および医薬品調製品の保存剤(濃度は規制・配合上の制限に従う)。例として、一部の手指消毒剤配合で完成品重量に対して規定された割合まで認可されている。
- 食品および乳製品産業の器具・設備洗浄のための陽イオン性洗剤および殺菌剤、ならびに一部のプール処理における藻類防除剤。
- 獣医用局所防腐剤および希釈した乳房/乳頭洗浄剤としての消毒剤。
- 一部のマウスウォッシュ配合添加剤およびいくつかのデオドラント・フケ抑制製品の成分。
- 歴史的には避妊剤および実験室分析(例:タンパク質定量)での補助試薬として使用されていたが、これらの用途は規制および安全性の考慮により制限される。
一般特性を超えた簡潔な用途概要が必要な場合は、その界面作用による抗菌活性、溶解性プロファイル、および目的の製剤成分との相溶性(陰イオン系界面活性剤や石鹸とは不適合)に基づき選択されることが一般的です。
安全性および取扱概要
毒性学的考察
塩化ベンゼトニウムは活性バイオサイドであり、経口摂取による急性毒性および十分高濃度での目・皮膚への刺激・腐食作用が報告されています。主な毒性学的特性として、0.1~1%の濃度域での重篤な眼障害の可能性、繰り返し曝露による皮膚刺激および接触皮膚炎、高用量全身曝露時の神経毒性(中枢神経抑制およびけいれんを含む)、ならびに稀に溶血性・メトヘモグロビン血症事象が挙げられます。致死的な経口投与量は数グラム程度と報告されています(経口致死量は約1~3 g)。曝露時の臨床的応急処置としては、直ちに目および皮膚を洗浄し、汚染された衣服を脱ぎ、誤飲または重大な吸入曝露の場合は迅速に医療機関を受診することが重要です。腐食性誤飲の場合は嘔吐を誘発せず、速やかに医療を受けてください。
環境毒性:この化合物は水生生物に対して有害であり環境へ放出すべきでなく、非適応条件下では生分解が制限されることがあります。
分類に関する注意:届出分類には急性経口毒性、皮膚腐食性・刺激性および重篤な眼障害・刺激性、さらに急性および長期の水生生物毒性が含まれます。具体的な分類および注意表示は管轄区域や製剤によって異なるため、製品別の安全データシート(SDS)を参照して規制上の危険コードおよび作業場管理策を確認してください。
保管および取り扱い指針
取り扱い:固体の取り扱い時は粉塵の発生を最小限に抑え、適切な設備(局所排気、密閉)および個人用保護具—耐化学薬品手袋、防護ゴーグルまたはフェイスシールド、空気中濃度が予想される場合は適合呼吸用保護具を使用—を用いてください。濃縮溶液を扱う際は、酸・有機蒸気・酸性ガス用カートリッジ呼吸器および不浸透性手袋を使用し、汚染または損傷時は直ちに手袋を交換してください。
保管:冷涼で通風の良い場所に保管し、光および湿気から保護してください。容器は密閉し、不適合物質(強酸化剤、陰イオン性界面活性剤/石鹸、硝酸塩)と分離して管理します。食品や排水口・下水アクセスから離して保管してください。純物質の長期安定のため冷蔵保管が推奨される場合があります。
こぼれた場合および廃棄:粉末を湿らせて粉塵の飛散を抑制し、適切な容器に掃き入れて廃棄します。環境への放出は避けてください。汚染された吸収材および廃棄物は、適用される地域の規則に従って収集・廃棄してください。
消火活動:可燃物であり、熱分解時に刺激性または有毒なガス(酸性ガスおよび窒素酸化物)を発生することがあります。周囲の火災に適した消火剤(水噴霧、フォーム、CO2、乾燥化学消火剤)を使用してください。消防隊員は完全な防護装備と自給式呼吸器を着用する必要があります。
詳細な危険性、輸送、法規情報については、製品固有の安全データシート(SDS)および地域の法令を参照してください。
安全性および取扱概要(続き)
応急処置および緊急対応(概要)
- 吸入:新鮮な空気の場所へ移動し、症状が現れた場合は医療機関を受診してください。
- 皮膚接触:汚染された衣服を脱ぎ、影響部位を石鹸と水で洗浄し、重度の刺激や火傷があれば医療機関を受診してください。
- 眼接触:十分な量の水で20~30分以上洗眼し、直ちに医療機関を受診してください。
- 誤飲:嘔吐を誘発せず、意識がある場合は口をすすぎ少量の水を与え、速やかに医療機関を受診してください。
これらの措置は一般的に報告された対応を要約したものであり、機関の緊急対応手順および地域の医療指示に従ってください。