ジフェニルエーテル (13-12-9) の物理的および化学的性質

Diphenyl Ether structure
化学プロファイル

ジフェニルエーテル

工業的有機化学および香料原料製造において一般的に使用される、非極性の芳香族エーテルであり、溶媒および合成中間体として用いられる。

CAS番号 13-12-9
ファミリー 芳香族エーテル
典型的な形態 無色結晶性固体または液体
一般的なグレード BP, EP, FCC, JP, 試薬グレード, USP
溶媒、中間体、香料原料として配合および合成工程に使用される;選択は必要な純度、相溶性、および取り扱い上の考慮事項によって決定される。調達および研究開発チームは通常、市販グレードを指定し、品質保証・品質管理およびプロセス検証のために分析証明書を要求する。

ジフェニルエーテルは芳香族ジアリールエーテル(分子式 \(\ce{C12H10O}\))で、2つのフェニル環がエーテル酸素を介して連結されている(IUPAC名:フェノキシベンゼン)。構造的には対称性のある非極性から弱極性分子で、酸素原子は2つのsp2混成の芳香族系をつなぎ、酸素の孤立電子対は隣接する環に部分的に非局在化されており、酸素の塩基性を低減し、古典的な水素結合供与体相互作用を最小化している。分子は低いトポロジカル極性表面積(TPSA = 9.2)かつ水素結合供与体がなく、水への溶解度が限定的でリポフィリシティが顕著であることと一致する。

酸塩基挙動は中性形態(形式的電荷0)で無視できるレベルであり、酸性条件下で酸素のプロトン化が可能である(報告された \(\mathrm{p}K_{\mathrm{(BH^+)}} = 5.79\)、25 °Cにおけるプロトネーション塩基の記述子)。物理化学的特性としては、高沸点、低蒸気圧、および log K_OW が約4であることが芳香族環間の強いファンデルワールス安定化と、水相より有機相への分配傾向を反映している。エーテル結合は、比較的自発的な切断に抵抗性があり、通常の環境条件下で加水分解はほとんど起こらない。切断には酸化的もしくは強酸性条件(あるいは特定の酵素的/生分解経路)が必要である。

商業的および工業的には、ジフェニルエーテルは熱伝達流体成分(熱伝達混合物の共晶成分として一般的に使用)、香水や石鹸の香料成分、および求電子置換(ハロゲン化、アシル化、アルキル化)や重合体製造のプロセス促進剤として重要である。この物質で報告される一般的な商業グレードには、BP、EP、FCC、JP、試薬グレード、USPが含まれる。

基本的な物理特性

密度

液体および固体の密度は、水よりやや高い値に集中して報告されており、芳香族の比較的高分子量有機化合物と一致する。代表的な報告値としては、30 °Cで1.0661 \(\mathrm{g}\,\mathrm{cm}^{-3}\)、相対密度(水=1)で1.08、範囲としては1.071–1.075がある(単一の認証済み標準密度は示されていない)。密度が1より大きいため、通常条件下でのバルク物質は水中で沈む可能性がある。固体状態のパッキング(多形性)が測定された固体密度に影響を及ぼすことがある。

融点

複数の実験的融点/凝固点が報告されている:80.3 °F, 26.865 °C, 28 °C, 37–39 °C, および 82 °F。これらの異なる値は、多形性固体形態および融点測定条件と一致する。結晶性試料は通常約82 °F以下で存在し、それ以上の温度で油状液体に融解する。多形性および結晶パッキング(異なる結晶形態で報告されたC–H···π相互作用)が融点の若干の差異を説明する。

沸点

ジフェニルエーテルは、2つの芳香環を有し低揮発性であることに一致する高い常圧沸点を持つ;報告された値には760 mmHgで258 °Cおよび496–498 °Fが含まれる(報告範囲は760.00 mmHgで258.00–259.00 °C)。常圧下での高沸点は高温熱伝達用途における使用を説明している。

蒸気圧

低揮発性を反映し、室温で低い蒸気圧が報告されている:代表的な値は25 °Cで0.0213–0.0225 \(\mathrm{mmHg}\)、77 °Fで0.02 \(\mathrm{mmHg}\)。この低蒸気圧により、通常条件下で蒸発が遅く、空気中濃度が低い。

引火点

閉閉杯引火点は115 °C(239 °F)付近に集中して報告されている;開放杯値として96.11 °Cも報告されている。これらの引火点はジフェニルエーテルが点火に予熱を必要とする可燃性液体に属し、可燃性有機液体に適合した火災制御措置が必要であることを示唆している。

化学的特性

溶解性および相挙動

水への溶解性は非常に低い:報告された水中溶解度は25 °Cで18 mg·L−1(0.018 mg·mL−1)で、多くの資料で「水に対して不溶/非常に難溶」と記載されている。一般的な有機溶媒(エタノール、ジエチルエーテル、ベンゼン、酢酸)には容易に溶解し、一部報告ではクロロホルムにはわずかに溶解するとされる。相挙動としては、融点以下で無色結晶固体、融点以上で油状/無色液体であり、香料用途ではゼラニウム様または花のような香りがあるとされる。

反応性および安定性

通常の保存条件下で安定であるが、強力な酸化剤と激しく反応する。クロロ硫酸のような強酸に接触すると激しい反応を起こすこともある。分解加熱時には一酸化炭素、二酸化炭素および刺激的な煙を放出する。エーテル結合は中性から弱酸性・弱塩基性の水性条件下で加水分解に強い;酸化的バイオ変換や特殊な触媒的・微生物経路によりヒドロキシ化や環切断生成物が生じる可能性がある。

熱力学データ

標準エンタルピーおよび熱容量

報告されている実験的熱化学値には、25 °Cにおける燃焼熱 −1466.63 kcal·mol−1、蒸発熱 15.99 kcal·mol−1が含まれている。融解熱は4.115 kcal·mol−1と報告されている。現在のデータ文脈では包括的な標準モル熱容量関数は提供されていない。これらの値は、置換された芳香族炭化水素として位相変化および燃焼に必要な大きなエネルギーを示している。

分子パラメータ

分子量と分子式

  • 分子式: \(\ce{C12H10O}\)
  • 分子量: 170.21(報告値)
  • 正確質量(モノアイソトピック質量): 170.073164938

LogPおよび極性

リポフィリシティは高い:報告されている分配係数にはXLogP = 4.2およびlog K_OW ≈ 4.21がある。低極性(TPSA = 9.2)かつ水素結合供与体0、水素結合受容体1(エーテル酸素)により、有機相への強い分配傾向と、小さく極性の高い有機化合物に比べて生体蓄積の傾向がある。

構造的特徴

ジフェニルエーテルは芳香族−酸素結合の回転が可能な非対称共役ジアリールエーテルであるが、非局在化および立体障害により自由回転が制限されている;回転可能結合数は2と報告される。酸素原子は単一の水素結合受容部位を提供するが、環との共鳴のためエーテル酸素は弱塩基性である。電子的特徴には各フェニル環の共役π系が含まれ、UV吸収に影響し置換体の安定化に寄与する。低TPSAおよび極性官能基の不在が水への溶解性の低さと比較的高いオクタノール分配をもたらしている。

識別子および同義語

登録番号およびコード

  • CAS(提供された識別子フィールド):13-12-9
  • EC番号 / EINECS:202-981-2
  • UNII:3O695R5M1U
  • FEMA番号:3667
  • RTECS:KN8970000
  • 追加の登録識別子および索引コードは、出典コレクションに存在します(ここでは網羅的に記載していません)。

構造記述子からも利用可能: - SMILES: C1=CC=C(C=C1)OC2=CC=CC=C2
- InChI: InChI=1S/C12H10O/c1-3-7-11(8-4-1)13-12-9-5-2-6-10-12/h1-10H
- InChIKey: USIUVYZYUHIAEV-UHFFFAOYSA-N

(IUPAC名はフェノキシベンゼンと報告されています。)

同義語および構造名

この化合物の一般的な同義語には以下が含まれます:フェノキシベンゼン;ジフェニルオキシド;フェニルエーテル;ベンゼン, 1,1'-オキシビス-;オキシビスベンゼン;ビフェニルオキシド;フェニルオキシド;1,1'-オキシジベンゼン。特定の商業製剤や同位体標識変異体には、追加の販売者名および歴史的名称が存在します。

工業的および商業的用途

代表的な用途および産業分野

ジフェニルエーテルは主に熱媒体液配合成分として使用されます(しばしばビフェニルとの共晶混合物として)、これが最大の工業需要を占めます。二次的な用途としては、石鹸、洗剤およびパーソナルケア製品の香料・フレーバー成分として、ポリマーおよびポリエステル製造における染料担体および加工助剤として、また電気芳香族反応(ハロゲン化、アシル化、アルキル化)の中間体として使用されます。また、難燃材に用いられるハロゲン化ジフェニルエーテル誘導体の前駆体でもあります。

合成または調製における役割

ジフェニルエーテルは求核的芳香族置換反応により製造可能であり(例:フェノキシド塩とクロロベンゼンまたはブロモベンゼンを加熱)、一部のフェノール製造プロセスで副生成物として生成されます。調製においては、非極性成分の溶媒または担体、香料の固定剤として用いられます。提供されるグレードには、技術用、香料用、工業用品質など、用途に応じたものがあります。

安全性および取扱い概説

急性および職業上の毒性

報告されている急性経口毒性値には、ラットのLD50が低グラム毎キログラム範囲にあり(例:2830 mg·kg−1および約3.99 g·kg−1の別報告)、吸入および皮膚経路では眼、皮膚および呼吸器の刺激を引き起こします。職業上の曝露が臭気閾値を超えると、吐き気をもたらすことがあります。繰り返しまたは長期の皮膚接触は皮膚炎を引き起こす可能性があり、動物の高用量試験では肝臓および腎臓に対する標的臓器毒性が実験的に確認されています。報告されている職業曝露限界値(PEL/REL/TLV)は約1 ppm(7 mg·m−3)前後の8時間時間加重平均値で、一部の指針では2 ppmの短時間許容濃度(STEL)も設定されています。IDLH値は100 ppmの範囲で報告されていますが、緊急対応の計画時には現場および規制当局特有の基準を参照してください。

応急処置:曝露者を速やかに汚染源から離し、眼や皮膚を水で洗浄し、症状が持続する場合は医療機関の診察を受けてください。摂取後は嘔吐を誘発せず、臨床的に必要な支持療法を行います。

保管および取扱い上の注意

ジフェニルエーテルの取扱いには、可燃性芳香族有機物に対する標準的な工業的管理策を適用してください:局所排気換気を用いて空気中濃度を制限し、適切な個人用保護具(安全めがね/フェイスシールド、耐薬品性手袋、防護服)を着用して皮膚および眼への接触を防止し、蒸気または加熱時に可燃性および引火限界が定義されているため、着火源を管理してください。保管は涼しく通気性の良い場所で行い、強力な酸化剤から隔離し、不適合物質から離して保管してください。容器は密閉し、環境への流出を防止するために保管し、こぼれた場合は排水口や水路に流出させずに回収・処分してください。

消火活動には、乾燥化学粉末、二酸化炭素、耐アルコール泡消火剤が適しています。加熱または火災時には、容器を安全な距離から冷却し、必要に応じて自給式呼吸器を使用した上で活動してください。分解生成物には刺激性および有毒な煙(炭素酸化物およびその他の燃焼生成物)が含まれることがあります。

詳細な危険性、輸送および規制情報については、製品固有の安全データシート(SDS)および現地の法令を参照してください。